福岡高等裁判所 昭和27年(ナ)6号 判決
原告 井上半吾
被告 福岡県選挙管理委員会
被告補助参加人 古賀常吉
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は参加によつて生じた部分をも含めてこれを原告の負担とする。
二、事 実
訴訟代理人は、「昭和二十六年四月二十三日施行された大牟田市議会議員選挙における古賀常吉の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告は、昭和二十六年四月二十三日施行の大牟田市議会議員選挙に立候補したものであるが、右施行当日までに投票所入場券の二重配布等幾多の違反行為を知了し、該違反行為は当選の結果に異動を及ぼす虞があるものと思料したので、法定の期間内に大牟田市選挙管理委員会に対し、当選の効力に関する異議の申立をしたが、同委員会はこれを採択しなかつた。それで原告は同年五月十六日被告委員会に訴願を提起したところ、同委員会は昭和二十七年二月二十三日「右選挙における当選人梶原隼太、川口勤、江上平、堀円次、古賀常吉、塚脇辰蔵、宮崎利貞の当選を無効とする。」との裁決をなしたので、原告は更に同年三月二十五日右無効とされた七名以外の当選者たる梅崎五郎外三十二名に対する当選無効確認の訴を提起し、一面右当選を無効とされた梶原隼太外六名も亦右裁決を不当として同月二十二日裁決取消並に当選有効確認請求の訴(当庁昭和二十七年(ナ)第三号)を提起したが、その間公職選挙法の改正に伴い訴の原因に多大の変改を生じたために、右梶原等は昭和二十八年一月十九日勝訴の判決を受け、該判決は同年二月九日確定し同人等は現に同市議会議員の職にあるものである。
ところで大牟田市選挙管理委員会は、前示古賀常吉(被告補助参加人)の得票数は八百三十票と発表しているが、該得票数中には他の候補者藤田光雄の得票二十票が紛入合算されているから、古賀常吉の実際得票数は八百十票である。而して当選者の最下位宮崎利貞の得票数は八百二十票であつて、次点者上野栄雄の得票数は八百十八票であるから、右古賀常吉はその下位になるので当然落選すべきものである。然るに選挙会が同人を当選者としたのは失当である。もつとも同人に対しては前示のとおり被告委員会において当選無効の裁決がなされていたので、当初本件訴訟の対象となつていなかつたが、同人はその対象となつていた最下位得票者田中留吉の下位得票者であるから、選挙に関する争訟の大衆性に徴し本件の場合の如きは当然その対象となるべきものと思料する。よつて右古賀常吉の当選の無効なることの確認を求めるため、本訴請求に及んだと陳述した。(立証省略)
被告訴訟代理人は、原告の請求を却下する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告がその主張の日に施行された大牟田市議会議員選挙に立候補し、その主張のような当選の効力に関する異議申立をなし、その後被告が原告主張のような裁決をなすに至るまでの経過、原告及び訴外梶原隼太外六名がそれぞれ原告主張のような訴を提起し、右訴外人等の提起した訴については原告主張のような判決がなされ、該判決は確定したこと及び選挙会において当選人と決定された古賀常吉(被告補助参加人)の得票数の計算に原告主張のような誤があつたため、その発表数と実際得票数との間に原告主張のとおりの差異を生じ、その結果同人は当然落選すべきものであつたことはいずれもこれを認めるが、その余の原告主張事実はこれを争う。すなわち
(一) 当初原告は被告に対する訴願において、当選人と決定された梅崎五郎以下古賀常吉を含む全員の当選の無効を主張していたが、被告の右訴願裁決により古賀常吉を含めた七名の当選無効のみが是認せられ、梅崎五郎以下三十三名の当選無効の主張は却けられたので、ここに原告は右梅崎五郎以下三十三名の当選無効確認請求の本件訴訟を提起するに至つたものであつて、本件訴訟は右古賀常吉を含む七名については係属していないのである。然るに原告が昭和二十九年六月二十二日の本件準備手続期日において、右請求を古賀常吉の当選無効確認を求める趣旨に変更したのは、すなわち請求の基礎に変更があるもので、これを許さるべきでない。従つて新請求は不適法として却下せらるべきものである。
(二) 仮に原告の右請求の変更が許さるべきものとしても、次の二点により本訴請求は却下せらるべきである。すなわち
(1) 被告が原告の提起した訴願において、古賀常吉を含む七名につき当選無効の裁決をなしたことは前示のとおりであつて原告もその裁決に対しては何等不服がなかつたのであるから被告を相手方として被告のなした右裁決の取消を求めるということはあり得ないので、被告は本訴につき当事者となるべき筋合のものではない。
(2) 別件の当庁昭和二十七年(ナ)第三号裁決取消並に当選有効確認請求事件の判決の確定により、古賀常吉の当選については既判力を生じ、しかも選挙の結果の画一的確定を企図する選挙に関する争訟制度の趣旨に徴すれば、この既判力は広く当事者以外の第三者にも及ぶものと解すべきであるから、もはや古賀常吉の当選の無効なることを争うことはできないものというべきである。
と述べた。(立証省略)
被告補助参加代理人は、参加の理由として、参加人は昭和二十六年四月二十三日施行の大牟田市議会議員選挙に立候補し当選したものであるが、原告は右選挙の管理執行に違反行為があり該行為は当選の結果に異動を及ぼす虞があるとして、大牟田市選挙管理委員会に当選の効力に関する異議の申立をなしたが、同委員会はこれを採択しなかつた。それで原告は更に同年五月十六日被告委員会に訴願を提起したところ、同委員会は、原告主張の日にその主張のような裁決をなしたので、参加人等七名は右裁決を不当として原告主張のような訴を提起し勝訴の判決を受け、該判決は既に確定したのであるが、一面原告は前記の訴願裁決により当選無効の主張を容れられなかつた当選人たる梅崎五郎以下三十三名について当選無効確認請求の本件訴訟を提起していたが、昭和二十九年六月二十二日の準備手続期日において、右請求を参加人の当選を無効とする趣旨に変更した。ところで被告は原告の右請求は不当であるから却下せられるべきである旨抗争しているが、右訴訟の結果原告が勝訴の判決を受けるときは、参加人は大牟田市議会議員の地位を失うこととなるので、ここに被告の主張を支持し、これを補助するため本件訴訟に参加した旨述べた。
三、理 由
原告が昭和二十六年四月二十三日施行の大牟田市議会議員選挙に立候補したこと、原告が右選挙における当選人全員の当選無効を主張して同市選挙管理委員会に異議の申立をなし、これが容れられなかつたので被告委員会に訴願を提起したところ、被告委員会において、被告補助参加人古賀常吉を含む七名の当選人の当選を無効とする旨の裁決をなしたこと及び古賀常吉が右裁決を不服として裁決取消並に当選有効確認請求訴訟(当庁昭和二十七年(ナ)第三号)を提起したが審理の結果勝訴の判決を受け該判決が既に確定したことは、当事者間に争がない。
而して、原告は、前記裁決においてその当選を無効とされなかつた当選人梅崎五郎外三十二名について当選無効確認請求の本件訴訟を提起したが、訴訟の進行中に、その請求を右梅崎五郎外三十二名の当選無効確認を求める趣旨から前掲確定判決の結果その当選が有効と確定した古賀常吉の当選無効確認を求める趣旨に変更した。これに対し被告は、原告の右請求の趣旨の変更は、請求の基礎に変更があるから許さるべきではないと異議を述べるので、まずこの点について考えるに、成立に争のない乙第一、第二号証に弁論の全趣旨を綜合すれば、前記裁決においては、本件選挙において確認できる合計七十一票のいわゆる潜在無効投票を、各当選者の得票数からそれぞれ差引き、その残余の得票数を最高位落選者の得票数と比較して当落の可能性を検討するときは、当選人梅崎五郎外三十二名の残余の得票数は最高位落選者の得票数より多いので当選に影響を受けないが、当選人古賀常吉外六名の残余の得票数は最高位落選者の得票数は最高位落選者の得票数より少いので当選の影響を受けるものとして、その当選を無効とすると判定し、その余の当選人梅崎五郎外三十二名についてはその当選を無効とする原告の主張を却けたものである。それで前述の如く原告は右梅崎五郎外三十二名について当選無効確認請求の本件訴訟を提起したのであるが、訴訟の進行中、前掲確定判決の結果、当選が有効と確定した古賀常吉の得票中に他の候補者の得票二十票が紛入合算されていることを発見したので、これを差引くときは、同人は当然落選者となるべきものであると主張して、当初の請求の趣旨を、右古賀常吉の当選無効確認を求める趣旨に変更したことが認められる。従つて、原告が本件訴訟において、当選人梅崎五郎外三十二名の当選無効確認を求めていた当初の請求も、又これが趣旨を変更して、古賀常吉の当選無効確認を求める後の請求も、いずれも、同人等の得票数の算定の違法を理由として、その当選の効力を争うものであること明であるから、本件訴訟の対象となるものは右請求の趣旨変更の前後を通じ、共に選挙会における当選人の決定に外ならない。而して、この種の得票数の多少を争う当選争訟にあつては、各候補者の得た有効得票数を算定して正当な当選人を定むべきものであるから、得票数算定の全体、従つて全部の当選人の当選が審理の目的となるもので、換言すれば選挙会における当選人の決定全部がその対象となるものというべきところ、その請求の原因としては、当該選挙会における当選人の決定が違法であるということを主張すれば足るのであつて、如何なる点にその違法が存するかということは結局請求を理由あらしめる攻撃方法に過ぎないものと解すべきである。それで、本件訴訟において、原告が当初求めていた当選人梅崎五郎外三十二名の当選無効確認請求と後にこれを変更した当選人古賀常吉の当選無効確認請求とは、その請求原因は同一であるということができる。
そして、如何なる内容の判決を求めるかを定める請求の趣旨なるものは、その請求の原因にして同一である限りこれを変更するも何等請求の基礎に変更を来すものではないと解すべきであるから原告が、前記のように当初求めていた梅崎五郎外三十二名の当選無効確認請求を古賀常吉の当選無効確認請求にその趣旨を変更したことは勿論許さるべきものといわねばならない。被告のこの点に関する異議は理由がない。
次に被告は、原告の提起した前期当選の効力に関する訴願において、古賀常吉を含む七名については当選無効の裁決をなし、原告もこれに対し不服はなかつたのであるから、更に被告を相手方として右裁決の取消を求めることはあり得ないので、同人の当選無効確認を求める本訴は、この点において不適法である旨主張するので考えてみるに、なるほど被告がその主張のように古賀常吉の当選無効の裁決をなしたことは前記の如く当事者間に争がないけれども、右裁決は前記認定のように、その後確定判決によつて取消されたのであるから、(該判決の既判力が本件に及ぶか否かは別として)後に右古賀常吉の得票数の算定に違法の存することを理由として、その当選の効力を争うため前説示のように本件請求の趣旨を変更することが許さるべきである以上、当初本件訴訟において適法な相手方たる資格を有していた被告は、その後変更された新請求について 依然当事者適格を失うものでないと解すべきであるから、右被告の主張も亦採用し難い。
よつて進んで被告主張の既判力の抗弁について考察するに、前顕乙第一、第二号証に弁論の全趣旨を綜合すれば、本件原告から前示古賀常吉の当選の効力に関し申立てられた異議、訴願は同人の得票数の算定に違法があるということを理由とするものであつて、右訴願に対しては前記の如く七十一票のいわゆる潜在無効投票を処理するときは同人の得票数は最高位落選者の得票数より少くなるからその当選は無効とする旨の裁決がなされたが、古賀常吉はこれを不服として右裁決取消等の訴訟(当庁昭和二十七年(ナ)第三号)を提起したところ、該訴訟においては昭和二十七年八月十六日法律第三〇七号による改正後の公職選挙法第二百九条の二の規定を適用し、前記七十一票のいわゆる潜在無効投票を処理するときは、同人の得票数は最高位落選者の得票数より多いことが明であつてその当選の結果には影響がないとの理由で、同人の当選を無効とした前記裁決の部分を取消す旨の同人勝訴の判決がなされ該判決は前記の如く既に確定したことが認め得られる。右認定の事実によつて明かなように古賀常吉の提起した右訴訟は、形式的には訴願の裁決に対する不服申立であつて、これが取消を求めることをその直接の目的としているけれども、もともと該訴訟は得票数の算定の違法を理由とする当選の効力に関する争訟に外ならないのである。ところで、地方公共団体の議会の議員の当選の効力に関する争訟において、請求を認容して当選の有効又は無効を確定した判決は、当落の結果を画一的に確定させねばならないこの種当選争訟の性質上当然対世的効力を有し、これに反する主張も、判断も許されないものと解するを相当とする。それで、前記認定のように古賀常吉がその提起した右訴訟において勝訴の確定判決を受け、その結果として同人の当選は確定したのであるから更に同人の得票数の算定にはその得票中に他の候補者の得点が紛入合算されている点において違法があるとして、同人の当選無効確認を求める原告の本訴請求は、右に述べる理由によつて、原告主張の如き得票数算定についての違法があると否とに拘らず、既になされた前記確定判決に反するものとして失当たるを免れないものといわねばならない。
よつて原告の請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十四条、第九十五条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 野田三夫 中村平四郎 天野清治)